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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)89号 判決

福岡県甘木市大字甘木二三七九番地の一(F-二三八号)

上告人

坂田憲治

福岡県甘木市大字菩提寺中の坪五六五番地の一

被告人

甘木税務署長 松田直樹

右指定代理人

小沢満寿男

右当事者間の福岡高等裁判所平成五年(行コ)第二七号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成六年二月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告人の上告理由第一点ないし第三点について

本件課税処分が憲法一四条、二五条に違反するものでないことは、最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁、最高裁昭和五一年(行ツ)第三〇号同五七年七月七日大法廷判決・民集三六巻七号一二三五頁の趣旨に徴して明らかであって、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

二  その余の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右違法のあることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠く。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 可部恒雄 裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫)

(平成六年(行ツ)第八九号 上告人 坂田憲治)

上告人の上告理由

(一) 上告理由第一点。事業所得における給与所得控除否定論について

原判決が、上告人について給与所得控除を認めなかったのは、法の下の平等を定めた憲法一四条をはじめ、後記(七)記載の憲法各条に違反するものである。

1 事業所得として区別されている所得は元来給与所得同様の勤労による対価として生じた利益で、その利益配分を法人等又は個人事業主から受領すれば給与所得となり、個人事業主が自ら勤労分を受領すれば事業所得とされる矛盾を第一審及び原審判決は、その理由中に於いて「立法府が裁量の範囲を逸脱し、その区別が著しく不合理であることが明らかでない限り、その区別の合理性を否定することができず、・・・」また「事業者は、その収入を得るのに要した経費の全額を被課税所得から控除できる・・・」である故に上告人の主張する右事業所得における給与所得控除には理由がないと判示する。

右判示は、結局被上告人の更正理由を単に追認し、また所得税法を安易に採用したものにすぎない。

2 しかしながら、所得税法の公定力は一般に認められているところではあるが、本件の特殊性からして、その適用は先ず給与所得控除の実態を見極めることに尽きる。

上告人が第一審及び原審で再三述べた争訟理由を深く探究せず結論を急いだ結果の判示である。尚、次の点に留意を・・・

(1) 給与所得者は経費記帳をしていないことで、経費と生計費の区別が判然としないこと。

(2) 給与所得者の中に、給与所得控除額が実経費を大巾に超過し生活費分の所得控除を受けている者が大多数であること。

(3) 国税庁の調査報告によっても給与所得と事業(営業)所得の一人当り平均額は昭和四九年を境に逆転していること。

(4) 給与所得を得るための経費の大部分は既に企業等において負担し、経費として処理されていること等々。

右のことく、理由がありながら立法府の放置により所得課税が著しく不合理になり、所得格差は拡大するばかりで永続している。

よって右記の解消を併せて真摯に求めるものである。

(二) 上告理由第二点。寡夫控除否定論について

原判決が、上告人について寡夫控除を認めなかったのは、法の下の平等を定めた憲法一四条をはじめ、後記(七)記載の憲法各条に違反するものである。

原判決によれば「適用要件が異なることは上告人指摘のとおりである」としながら「寡夫控除に準じて設けられたもので寡夫と寡婦との租税負担能力の違いその他の諸事情を考慮したものである」としている。しかし、昭和五六年の税制改正よって制定された寡夫控除は一二年余の年月を経過し、又、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等の法律も制定された今日、租税の負担能力は同額の所得であれば寡婦と寡夫の間に差異はなく、あるのは所得額の多少と扶養する子などの人数のみである。したがって現行法の矛盾を認めない原判決は該当憲法条文の解釈を曲解している。

(三) 上告理由第三点。非課税となるべき最低限度の生活費相当額否定論について

原判決が、上告人について、生活保護法の趣旨などにより当然非課税とすべき額についてまで課税の対象とすることを認めたのは、健康で文化的な生活を行う権利を定めた憲法二五条をはじめ、後記(七)記載の憲法の各条に違反するものである。

原判決は自ら非課税となるべき右記相当額を算定し判決を下す権限を与えながら、その権限を行使せず、上告人が具体的に生活保護法等を基準として算出した額を安易に否定し、『清貧者に重税を課した処分を正当』とすることは誤判も甚だしく、何人をも説得することはできない。

(四) 上告理由第四点。加算税賦課の違法否定論について

判決が加算税賦課の違法を認めなかったのは、法定手続の保障を定めた憲法三一条をはじめ、後記(七)記載の憲法各条に違反するものである。

第一審判決利用中に於いて「・・・更正処分は、憲法及び所得税法に適合する正当なもの・・・」また「国税通則法六五条四項に定める正当な理由があったとは認められず、・・・」である故に上告人の主張に理由がないと判示する。

しかしながら、右判示は発生基因として給与所得控除及び寡夫控除の二つを併せた控除が憲法上認められるか否かを争っているのである。したがって、裁判を受ける権利の実行に必須の申告であり、上告人は正当な権利主張を貫徹するために過少申告加算税賦課処分を否応なく甘受せざるを得ないこととなり、これは一般常識から見てもいかにも酷なるものと言わざるを得ない。

すなわち、国税通則法六五条四項の定めはこのような国民の権利行使をも「正当な理由」として認め、苛酷な結果を招来することを回避する目的のためにあるのであるから、本件の如き事情こそ、該当することを看過して為された被上告人の賦課処分には、重大な法令解釈の過りが存することは明白である。

尚、原判決は、その適否の判断を判示していない。

(五) 上告理由第五点。督促処分の違法否定論及び銀行預金差押え処分について

判決が被上告人の督促処分の違法を認めなかったのは、法定手続の保障を定めた憲法三一条をはじめ、後記(七)記載の憲法各条に違反するものである。

1 第一審判決理由に於いて「本件課税処分に瑕疵のないこと」、また「国税の賦課処分と督促処分とは、それぞれ目的及び効果を異にする別個の手続による行政処分・・・」である故に上告人の主張する右賦課処分の違法性は、「前者・・・・・は後者に継承されず・・・」「仮に前者に瑕疵があったとしても、・・・課税処分が当然無効・・・、」か「権限のある者によって取り消されない限り、督促処分の効力に影響を及ぼすものではない・・・」さらに「納付期限までに完納していない・・・」と判示する。右判示は、結局被上告人による「給与所得及び寡夫に該当しないから『更正処分は適法である』。賦課処分は、『租税義務の確定』を、又督促処分は『納付義務を強制的に履行』を、それぞれ目的とし、且つ『それぞれ目的及び効果を異にする別個の手続による行政処分』である・・・・・」との主張を安易に採用したものにすぎない。

しかしながら、右判決判示は収税官庁の利益のみを一方的に強調し、納税義務者もしくは納税義務者と看做される者の利益を無視した不当なものと言わざるを得ず、更に本件の場合は判決に摘示された経緯から明らかなとおり、当該更正対象の控除額に対する課税に争いがあるのみならず、それは数百万人に影響を与え、さらに、その課税の正当性も終局判決を待たねば明確になり得ないのである。

したがって、右二種の処分は、結局密接に関係しているのであり、通常の単なる申告したが納税しない。あるいは賦課処分による認定税額の多少に争いのある場合と異なり、そもそも納税義務自体の有無が不明確なまま、租税法により強権的・一方的に為された賦課処分に明白かつ重大な瑕疵が存するのである。

この場合、判決の如く督促処分が許されると一方的に納税義務者とされた者は、公権力のもと行政隷属を強制され、苦役に等しい苦痛を受けることを余儀なくさせるものである。よって違法は明白である。

2 さらに上告人の主張を貫くため、供託を法務局に求めたが拒否され、そのために差押え処分を被上告人が行い、現在国税審判所に於いて審理中である。これも督促処分が行なわれた結果で差押えは財産権を明らかに侵害し違法である。

尚、原判決は、その適否の判断を判示していない。

(六) 上告理由第六点。延滞税課税の違法否定論について

判決が、被上告人の延滞税課税の違法を認めなかったのは、法定手続の保障を定めた憲法三一条をはじめ、後記(七)記載の憲法各条に違反するものである。

第一審判決理由中に於いて「延滞税の納付義務は・・・・・法定納期限までに完納しない時に・・・・・何ら特別の手続を要することなく・・・発生する。」である故に上告人の主張は、「・・・・・取消し対象を欠くもので・・・・・却下する。」と判示。しかし右判示は結局被上告人の主張をそのまま安易に採用したものにすぎない。

しかしながら右判決判示にしたがえば、一般国民は延滞税が何日から起算され、その税率も周知されていない。又、本件についても、告知されたのは更正処分等の通知書であり、申告期限の三月一五日より四ケ月余日経過後で、しかも前記経緯からして納税義務の有無に争いある場合、終局判決によって、義務有とされた時に始めて確定し、起算日となるのが当然であって、法定期限日とすることは、上告人あるいは一般国民と収税官庁の対等平等の原則に反し、極端な不均衡は社会正義に反する違法なものである。

尚、原判決はその適否の判断を判示していない。

(七) 結語

以上のごとく、原判決は悉く憲法違反である。

(一)については憲法一一条、同法一三条、同法一四条一項、同法二五条一項、同法二九条一項、同法九七条、同法九八条一項、同法九九条の解釈の誤り――民事訴訟法第三九四条の法令違反――、かつ判決に明確なる理由を付けず、理由に齟齬があり――同法第三九五条一項六号違反。

(二)については(一)と同じ。

(三)については(一)と同じ。

(四)については(一)と同じ。他に憲法一八条、同法三〇条、同法三一条、同法八四条の解釈の誤り――以下同じ。

(五)については(四)と同じ。

(六)については(四)と同じ。

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